これまでのコラムでは、日本の組織に必要な「Augmentation(拡張)」の考え方など、これからの時代の組織のあり方や、組織側から見た人材の「雇い方」などについてお話してきました。

今回からは、組織ではなく、雇われる労働者側の視点で、これからの「働き方」「雇われ方」についてのお話をしていきたいと思います。

大卒者は、高卒者や中卒者と違う幹部候補生だった。

今や、日本の大学進学率は50%を越えています。大学に進学することは当たり前、とも言える時代になりました。進学が当たり前になれば、大卒という肩書きで特にアドバンテージはありませんし、大学に進学すれば一生安泰、という時代ではないですよね。

その昔、大学は数も少なく、ごくごく限られた人だけが進学していました。戦前までは、ほとんどの人が職人だったり、農民だったり、商人だったり、何かしらのプロフェッショナルになり、プロとしてお金を稼いでいました。

そこには家業を継がねばならなかったり、希望している職業には就けなかったり、過酷な労働の割に現金収入が少なかったり、不自由なことは多々ありましたが、それでも何らかのプロにはなっていた。生きていくためにはプロにならざるを得なかったわけですね。

しかし、そんな一介の労働者になること、不自由を抱えることから脱したいと願っていた人はたくさんいました。

そんな人たちに与えられたチャンスが、大学です。戦後は、大学がボコボコとたくさん作られました。何とか一介の仕事から脱したいと願っている人たちが、大学進学を志すようになります。

無事に大学に進学し、卒業をすると、幹部候補生として中卒者や高卒者とは違う扱いを受けてきました。

大卒の仕事は会議室であれこれ言うこと。

中卒や高卒の人が、これまでと同様に手を動かしてモノづくりをしたり、汗をかいて営業先を回ったりする一方で、幹部候補生の大卒は企画や管理の仕事をする人として、涼しい部屋で会議に出たり、机から指示を出したりしていました。

自分で手を動かすことは、大卒の仕事ではない。大学を出ているエリートは、手を動かさずに責任を持って指示をしなくてはならない。会議であれこれと言うのが勝ち組、と思われていたのです。

個人の能力よりも、大学を出ているかどうかが重要視される時代でした。いわゆる「総合職」採用として、出世する可能性がある切符を、大卒なら誰でも手にすることができました。

戦後から高度成長期にかけては、大卒という切符を持っているだけで奇跡のように扉が開いた時代があったのです。日本の歴史の中で一瞬だけです。

良い大学、つまり難易度の高い大学を卒業している切符を持っていれば、さらに扉は大きく開かれます。この流れはしばらく続き、何とか大卒の切符を得ようと日本中が大騒ぎしていました。

しかし、今はこの扉は閉ざされ、形骸化しています。

大学は平成の時代も増え続けましたが、子どもの数は激減しました。令和の時代になり、さらに少子化は進むと想定されますが、大学の数が激減する様子はありません。

すると、大卒者が激増したため、大学を出ても企画や管理の仕事ができなくなりました。企画会議に出てあれこれ言っていればOK、という椅子はとても少なく、その椅子取りゲームに勝てる条件は、どんどん厳しくなっています。

昔は大学を出ていれば無条件に椅子に座れたのに。

日本の組織は、現場から離れないと給料が上がらないシステム。

このように状況は変わり、椅子は少ないのに、大卒者はエリートとして責任を持って指示を出す側に回るべき、との考えが日本の組織には染み付いてしまっているんですね。

大学を卒業し、新入社員として会社に入った直後は、誰もが現場の仕事をします。汗をかいてモノづくりをしたり、足を使って営業をしたり。

しかし、日本に染み付いた大卒エリート教では、現場からフロントに行きなさい、と言われてしまうのです。

中堅社員のあるあるで、そろそろ現場から離れて指示を出す側に回るべき、あなたがいつまでも現場にいては下が育たない、下を育てることが今後のあなたの役割です、と言われたことがある人は多いのでないでしょうか?

これ以上年俸をアップしたいなら、現場でボールを追いかけるのではなく、フロント入りが必要だ、と言われてしまうのです。現場から離れないと給料が上がらないシステムになっています。

大卒のエリートは会議で指示を出す側に回ってしまうので、実際に現場で働く人がいなくなる。つまり「人が足りない」という事態に陥ります。

現場でボールを回す人が少ないなら、手っ取り早い解決方法は現場仕事を外注することです。汗をかく人を社外に求めますが、日本では圧倒的に現場の選手が少ないので、海外に発注することが増えていきます。

そして、現場にスッカスカの空洞化が起こります。まさに今、日本のあちこちで起こっていることです。

今は日本の空洞化が懸念されていますが、それも長く続かないかもしれません。大卒のエリートが会議室の椅子取りゲームに興じている間に、日本の組織は国際的な競争力を失っているからです。

そのような状況下で、コロナ禍など世界的な不景気が押し寄せてきました。その結果、日本の働き方、雇われ方はどのように変化していくのか?

長くなりましたので、また次回にお話します!