AB社コラムの第4回は、私が正社員となった約30年前から現在まで、社会や企業の変化に伴い、正社員に求められることがどのように変わってきたのか、についてお話したいと思います。

新卒入社した電通は、幸せな職場だった。

前回でもお話しましたが、私が新卒以来30年以上勤務した電通を辞めたのは、「持ち帰って検討します」と言う正社員の方々と仕事をすることに耐えられなくなったことが、大きな理由のひとつです。

ですが、電通に入社した1988年からしばらくの間は、とても楽しく、幸せな正社員生活を送っておりました。

それは、「持ち帰って検討します」と言わない文化だったから。

自分では決められずに持ち帰って上司に相談すると「そんなことは自分で考えてくれる?」「自分で考えてやりなさい」と言われる会社だったからです。なんて素晴らしい会社なんだろう、と思いながら正社員をしておりました。

10年経つと、社会状況が変わってきた。

しかし、時は過ぎて、10年経った1998年頃から状況が変わってきます。

電通は上場することが決まりました。そのためには、いろいろな意味でクリアな組織にしなくてはなりません。不正を防止するとの観点で、内部統制をしっかりする方向になりました。

また、電通が上場を果たした2001年には、世界を揺るがせたエンロン事件(巨額の粉飾決算)が起こります。

これをキッカケに、他の有力企業の不正会計も次々と明らかになって、2002年に米国で「SOX(サーベンス・オクスレー)法」が制定されるわけです。そして、「コーポレートガバナンス」という言葉が盛んに言われるようになりました。

日本でも、2008年に日本版のSOX法として「J-SOX」が導入されました。内部統制報告制度ですね。この流れの中で、電通も内部統制をもっと組織としてしっかりやっていこう、内部統制が自然と行われる組織文化を作っていこう、となりました。

すると、不正を防ぎ、統制を取るため、何ごとにも上司の許可が必要になりました。どんどん持ち帰って上司に相談するようになりました。私自身もその頃は部下がいて、上司の立場になっていたのですが、部下が持ち帰ってきて「どうすればいいですか?」と相談してくるのです。

「自分で考えて」と言いたいところですが、それができない。

なぜならば、部下は自分で考えて自分がベストだと思うことを決断して実行することを、禁じられているからです。

私が入社した30年前とは、正社員に求められることが大きく変わったのです。

それは時代の流れです。

でも、やっぱり自分で決められないのって、変じゃない?

内部統制の流れは、悪いことではない。私が乗れないだけ。

この流れになってからも、10年間頑張ってみましたが、結果として、私はこの違和感にどうしても耐えられませんでした。

ただ、ここで誤解してほしくないのですが、私はこのコーポレートガバナンス、内部統制の流れが悪いことだとは思っていません。ルールに沿って動くことは大切です。

例えば私が入社してから10年間くらい、ガバナンスという考え方のかけらもなかった頃は、しょっちゅう大事故が起こっていました。

しかし、今はあの頃のような大事故が起こることは考えられません。規格化されたレギュレーションに則って、個人の好みを主張せず、生産性をあげること。そうすれば、会社全体として力が発揮され、会社は成長します。会社が成長すれば、個人にも恩恵があります。それで良いのです。

でも、残念なことに、私はその流れに乗れない人間でした。永遠のマイノリティを自覚しています。

だから、会社という船を降り、自分で決められる個人事業主の方々と一緒に仕事をすることを選びました。そしてAB社を立ち上げ、企業が「Augmentation(拡張)」するお手伝いをする事業を中心に展開しようと決めました。

この「Augmentation(拡張)」は、AB社の根幹となるコンセプトです。次回からは、「Augmentation(拡張)」とは何か、詳しく解説します!

ではまた!