10年以上前から、私は「これからホワイトカラーにはとても厳しい時代が来る」と言い続けてきました。そのたびに、「生き残るには“利他”に徹するプロだという評判を得るしかない」ということも言い続けてきました。
当時はピンと来なかった方も多かったと思いますが、いまや現実になりつつあります。
目次
- なぜ「利他」が必要なのか?
- 「利他」は自己犠牲ではない
- AI時代に生き残る人とは?
なぜ「利他」が必要なのか?
みなさんも日々の仕事で体感していると思いますが、
AIによって、ホワイトカラーの常識が書き換えられています。
いまアメリカでは、有名大学の新卒が300社に応募して3社しか採用されないという状況が起きているそうです。
ほんの数年前まで「勝ち組」と言われていた層でさえ、内定が取れない。
企業は人を増やすことに非常に慎重になっています。
ご存知のように、きっかけは生成AIの登場。
AIが文章を書き、資料を整え、要約を作り、分析をする。
人に頼まなくても、数分で“それなり”の成果物ができてしまう時代です。

そんな時代だけに、人に依存している企業は株式市場から“古い”と見なされてしまうようになりました。
そうなると、企業は当然、人の雇用を減らしてコストを下げようとします。
その結果、プログラマー、弁護士、会計士、コンサルタントなど、
これまで高い専門性で評価されてきた職業でも「ジュニア(下働き)」の募集が急減しました。
ほんの1年で「新人を採るのが当然」だった世界が、「まずAIにやらせよう」という常識に変わってしまったのです。
そんな激変のなかで生き残るには、「いろんなことをよく知っている人」ではなく、AIにはできないことができる人だと周囲に認識されることが必要です。
そしてそれこそが、利他行動を自然にできる人です。
「利他」は自己犠牲ではない
「利他って自己犠牲のことですか?」と聞かれたり、「自分を卑下するのはイヤです」と言われたりすることがあります。
けれど、利他は犠牲でも卑下でもありません。
むしろその逆で、自分をしっかり大切にできる人だけができることです。
利他とは、自利の先にあるもの。
つまり、まず自分を整え、自分を尊重し、自分のエネルギーを満たしたうえで、その余力をもって他者に向き合う行動のことです。
自分の生活や心がボロボロのまま他人のために動こうとすると、いずれ破綻します。
それは「利他」ではなく、単なる「自己消耗」です。
利他とは、自分を支えられる人が、結果的に周囲も支えることです。

ところが近年、社会が豊かになるにつれて、「自利」をきちんと経験していないまま大人になる人が増えています。
親世代がまだ貧しい時代に「我慢」「義務」を重視してきた反動で、次の世代は「権利主張」「義務回避」を声高に掲げるようになりました。
その結果、「自己肯定」と「自己中心」が混ざってしまっている状況です。
利他の第一歩は、“自分を大切にすること”を他人に委ねないこと。
誰かに「認めてもらえない」と嘆く前に、自分で自分を尊敬する。
自分の小さな約束を守り、自分の時間をていねいに使う。
そうして自分を満たしていくプロセスの延長に、ようやく他人を思いやる余白が生まれます。
AI時代に生き残る人とは?
AIがどれだけ賢くなっても、“この人と働くと気分がいい”という価値は人にしか出せません。
いま、アメリカのトップMBA(経営大学院)を出た人たちでさえ就職に苦戦しています。資料作成や分析など「修行」的な仕事の多くがAIに置き換えられたため、若手が経験を積むチャンスそのものが激減しています。
一方の日本では、いわゆる「働き方改革」によって、新卒のうちから「残業しない」「権限をもって働きたい」という人が増えました。
結果として、下積みや修行を通して“地力”を鍛える機会を自ら手放してしまっている。
日本の経営者たちも、その危うさに気づいています。
AIでは代替できない実践力を身につけてほしいからこそ、「この人なら時間とコストをかけて育てたい」と思える人を探しています。

その基準は単純です。
“いっしょにいて気持ちがいい人”かどうか、です。
スキルや学歴よりも、空気を和らげ、場を前向きに動かす力。
つまり、利他のふるまいが自然にできる人です。
逆にいえば、いつも不満を抱え、周囲や環境のせいにしてしまう人は、悪気がなくてもチームの生産性を下げてしまいます。
AIは何度聞いても嫌な顔をせず、すぐに答えてくれます。
フォローの言葉もかけてくれる「いいヤツ」です。
AIが常に隣で気持ちよく頑張ってくれている一方で、「なんとなく一緒に仕事をしたくない」と思われる人は、AIより先にあっさりと手放されるのは、当然ですよね。
AI時代に生き残るのは、
“自分のために”上機嫌でいられる人、
“自分のために”他人を尊重できる人。
自分を大切にしながら他人を思いやる、利他の人。
それが、AI時代にこそ求められる新しいプロフェッショナルの姿だと感じています。
次回は、「利他」を実践するために欠かせない“自利ファースト”について。
まず自分をどう整えるかについて掘り下げていきます。